漆黒の空に、まばたく星たち。日本の空には見えない天体が繰り広げられている、北アフリカの大地。プロジェクトの立ち上げ部隊の一員として、乗り込みました。

見渡す限り、草と乾いた土の陸が続きます。昼間は牛や羊が放牧され、コウノトリが、高い木にこしらえた大きな巣から、こちらを眺めている。明日は、通訳と一緒に、電気と水をひくための許可をもらいに役所へ行こうと、チームで話していました。

ふと気づくと、見慣れないヒジャブ姿の老女が、わたしに何かを言っています。目をキラキラさせて、くしゃくしゃの笑顔で、目の前に立っている。現地のスタッフに訳してもらって、初めてわかった衝撃のひと言。

「日本人の女性を初めて見たから、サインをもらえないだろうか」

13カ国から2万人が参画した、数千億円のプロジェクトの夜明け前は、こんなふうでした。

大型船60隻

自国に技術がない国では、道路や空港、港、発電所などの国の基幹インフラを、他国の企業の技術で建設することになります。

まずは、プロジェクトのための人集め。設計や測量の専門家に、通信技師、鳶に、クレーンオペレーター。法律家に通訳、調理人に、ドライバー、コピーボーイにメイド。人集めと並行して、大量の重機や装置を調達します。クレーン、ダンプトラック、ショベル、移動用の車両数十台。材料も必要です。鉄筋、コンクリート、アスファルト、数万トン。ヨーロッパ、中東、アジア。言葉も文化も通貨も異なる場所から、プロジェクトに必要な人、機械、物がやってくる。

人の先には、母国や家族がいます。機械の先には、製造やメンテナンス、オペレーターといった人がいる。材料の先には、砂や鉱脈といった、大地がある。

定期航路には乗らない量なので、大型船60隻をチャーターしました。海を渡ってやってくる、大量の貨物。事前にどんなにシミュレーションしても、海が大荒れになれば、船は遅れます。受け入れ港は、いまだかつて、こんな大量の貨物は扱ったことがない。荷揚げが遅れ、輸入通関が遅れる。

海も、鉱脈も、機械も、人も、すべてがつながっている。どのピースが欠けても、プロジェクトは途切れてしまうのです。

コーヒーカップの先

プロジェクトだけじゃありません。

目の前のコーヒーカップの先には、人がいます。陶器の先には土があり、土の先には微生物がいる。万物は、呼応しながら、網目のようにシームレスにつながっている。わたしたちは、その網目の一部として生かされていることに、気づかされます。

わたしたちは、ついつい、見えているものだけを世界と思ってしまう。首をつっこんで主張しようと言っているのではなくて。でも、無関係ではないのです。

現代社会において、わたしたちは、かつてないほど多くの情報に触れています。それでもなお、自分が知っていることだけで、世界を理解した気になってしまう。もしかしたら、本来持っていた世界の観(みかた)の柔軟性を思い出す、曲がり角にいるのかもしれません。

あの夜明け前の星空の下で、サインをねだってくれた老女の、くしゃくしゃの笑顔ごと、いまも思うのです。

スケールの大小にかかわらず、世界はずっと、呼応でできている。