赤ワイン半分の勢いで始まった声楽のレッスンを重ねるうちに、声楽って、「口から声を出す」んじゃなくて、「体から音を響かせる」んだって感覚が、少しずつわかるようになってきました。

ところで、体感を他者に共有するのって、とても難しいことです。ひとりひとり感じ方が異なるし、たとえ言語化できたとしても、言語だって、ひとりひとり受け取り方が異なる。思いっきり、主観の世界・・・。

Tさんは、その主観である感覚を、いろんな事例で理解できるように伝えてくれます。

オルゴールのとげとげ

「体から音を響かせる」の感覚で、わたしが一番わかりやすかったのは、オルゴールの例でした。

オルゴールは、とげとげ(針?)がいっぱいくっついている音色の素になる部分と、それを入れる箱で構成されています。とげとげ部分だけだと、音は小さく鳴るけど、響かない。とげとげを、共鳴箱という箱に入れて、初めて音が響くのです。

人間でいえば、人体の骨を共鳴させることで、音が響く。そして、人体から響き出た音は、ホールという共鳴箱で、さらに響く。

だから、声楽家の声は、口から出てなくて、体から出ているように感じる。

耳で聴く、というより、体で感じる。

そうか、だから、大きなホールでマイクなしでも、あんなにすごい音が出せるんだ。あれは、声量が大きいんじゃなくて、音を響かせているんだ。いやー、いままで、わかってるようで全然わかってなかったな〜。

「知ってる」と「わかる」って全然違うよねシリーズが、また増えました。

声で歌う、響きで歌う

その後、声楽を始める前には想像もできなかった、国際的なキャリアのプロの声楽家の方々とお話しする機会にも恵まれました。

同じ歌でも、「声で歌う」と「響きで歌う」があって、声で歌う歌手は上手かもしれないけれど、その声はオーケストラを超えてはきません。上手だなとは思うけど、ただそれだけ。他方、響きで歌う声を聴くと、「うゎーっ、なんか凄いぞ!」って鳥肌が立つような感覚がある。ホールの空気が波打つような感じがしたり、体温が上がるような感覚があることも。

その話の流れで、素敵なソプラノ歌手の方が言った「声帯も音を聴いていますからね」というひと言が、とても印象的でした。

考えてみれば、音の源は、振動です。振動が空気中を伝搬して音波となって、耳の鼓膜を震わせる。ということは、認識こそできないけれど、耳という感覚器官以外も、音波で振動しているのは自然なこと。わたしたちは、耳で聞こえる音以上のものを、いつも全身で浴びているのです。

わたしの先生が「音楽は耳で聴くんじゃなくて、体で感じるもの」とよく言っているのは、耳という感覚器官で完結する話じゃない、ということなんだと思います。響きで歌う人の声は、体の隅々の細胞まで震えるくらい響きわたる。だから、体全体で感動するのだと思うのです。

声は正直

スピーチやプレゼンで、流れるように喋るけど中身がちっとも入ってこない人と、少しくらい途中で詰まっても、なんだか心に残る人がいます。それと似ているかもしれません。

声って、正直だなあと、あらためて思います。歌やスピーチのときだけじゃなく、日常の会話でも、すぐにわかってしまう。心で思っていることと喋っていることがチグハグだなとか、この話題に興味がないのに無理矢理付き合ってくれているんだなとか(笑)

言葉の技巧を磨くことと、存在ごと響かせること。人と人の間で本当に届いているのは、どちらなのでしょうか。